海水魚飼育するのにどんなものが必要なのでしょうか
海水魚飼育に必要なもの
海水魚飼育は、海水魚を入れる「容器」と「海水」と「餌」があればできます。
でもこれだけでは不足する場合がほとんどです。
「容器」はバケツでもいいのですが海水魚は上から眺めるより横から眺めたほうがきれいに見えるのでガラスとかアクリルの透明な水槽がよく使われます。
「海水」は住まいが海のそばなら手に入れられますが普通は手に入れにくいので「人工海水(海水の素)」で作っています。
海水を
人工海水(海水の素)で作るときは、比重1.023に合わせるため必ず「比重計」も必要となります。
そして「海水の素」を溶かす水は多くの人が水道水を使っていますが、そのままだと含まれている塩素(カルキ)の害がでてしまいます。
害をなくすために「中和剤(カルキ抜き剤)」も必要となります。
「餌」は魚やエビの切り身でもいいし熱帯魚の餌などでよいのですが、切り身は食べ残しがでると水質を悪化させやすいですし熱帯魚の餌にすると海水魚に不足する栄養分がでてしまいます。
このようなことにより海水魚を飼育するときは「海水魚用の餌」を使うのが普通です。
日本国内では四季を通して気温の安定している地域がほとんどなく、冬の水温は20℃以下となるため「ヒーター」が必要となります。
逆に夏場の水温が30℃を超えるところでは「クーラー」が必要です。
気温が変化すると水槽内の水温も変化するので水温が25℃前後に保たれているかを知るため「温度計」も必要となります。
そのほか水槽内の海水魚がきれいに見えるよう「照明」をつけるのが普通です。
ここまでそろえると海水魚を鑑賞していけます。でも水槽に入れた海水は時間とともに汚れていくので汚れた海水を新しいものに入れ替えていかなくてはなりません。
毎日水の交換をしていくのは大変なので「ろ過装置」を付けている人がほとんどです。
原則毎日水の交換をしていかなくてはならないのをろ過装置をつけることによって水交換を数週間に一度で良くすることが出来ます。
ただ長く育て続けるにはもう一つ大切なものがあります。
一時ディズニー映画のファインディングニモが人気になりたくさんの人がカクレクマノミを飼育しだすというブームがありました。
そのときのにわかアクアリスト達は数週間以内にカクレクマノミを全部死なせてしまいました。
そして次々飼育をやめていきました。
ブームに乗って形だけアクアリストになっても一番大切な生き物に対する愛情と知識が欠けていたためです。
飼育している生物に対する愛情があれば元気に育てていく努力もしますし研究もしていきます。
そのおかげで長く健康に育て続けていけるのですが、 器具や道具を揃える財力はあるけど愛情はないという人では結局飼育し続けていくことができなかったのでしょう。近年またニモの続編ファインディングドリー
が公開されましたがこのときはニモのときのようなブームは起こりませんでした。

1. 人工海水

人工海水は食塩に似た白く塩っぱい粉ですが食塩で代用することはできません。
人工海水には食塩の成分塩化ナトリウム以外に生物が必要としている微量元素が適正に含まれているからです。
ショップで数種類の製品が販売されていてどれを選べばよいか分からないと思いますが、現在売られているものについてはどの製品もほとんど同じと考えてよいものです。
サンゴなど水質の微妙な違いで影響がでる生物用に特別に配合を変えてあるものもありますが、海水魚だけを飼育するのなら安いものでも高いものでもほとんど違いはありません。
ただ、高い「海水の素」の方が水にさっと溶けやすい傾向にはあります。
「海水の素」は水道水で溶くか、RO浄水器で不純物を除いた水で溶くかして比重1.023の海水を作ります。
ただし海水魚を飼育する時の比重は1.023を上限と考えて、最初は1.020くらいの比重にする方がうまくいきます。
水槽の水は必ず時間と共に水分だけが蒸発してだんだん比重は高くなっていきます。
そのため最初は比重を低くしておき1.023を超えないように管理していくとうまくいきます( サンゴ、イソギンチャク、サメ、エイなどの飼育では天然海水と同じ1.023で飼育します)。
海水魚は淡水の比重1.000では生きていけませんが逆に比重が1.027を超えた中でも生きていくことはできません。
飼育中は比重が高くなり過ぎないよう注意します。
また、比重を合わせるときの注意があります。比重の値は水温により違った値を示すので正確に海水を作るときは水温を25℃にして作ります。
必ず水槽とは別の容器に水と人工海水(海水の素)を入れよくかき混ぜて溶かします(ほとんどかき混ぜなくても水に溶けてくれる海水の素もあります)。
水槽に直接入れると海水の素が良く溶けず底に沈殿して正しい比重にならないことがあるからです。
そして溶いて作った海水はできれば1日置いてから使うようにした方がベターです。

上級者の中には水質にこだわる生物を飼育している人もいます。 そんな人たちは通信販売で天然海水を購入したりしています。 海辺の近くに住んでいる人は自分で海水を汲んできて使うこともできますが 岸に近いところは生活排水によって有害物質が含まれていたり細菌が繁殖していたりします。 この海水を狭い水槽の中に入れてしまうとたちまち水質を悪化させてしまいます。 飼育生物を病気にさせないためにはなるべく沖合の汚れていない海水を汲んでくるようにします。 販売されている天然海水は沖合や深海のきれいな海水でなおかつ滅菌処理されているので安全です。

2. 中和剤(カルキ抜き剤)
水道水で海水を作るときに必要となるものですが昔から多くの人が価格の安いハイポを使ってきました。
日本の水道水には殺菌する目的のためかなりの塩素が投入されています。
塩素は細菌や原生動物など小さな生物を殺す働きがあります。
そのため水道水は人間が飲んで安心な水になっています(日本以外の国では塩素の量がずっと少なかったり、オゾンを使って殺菌したりしているので水道の水は必ずしも無菌というわけではなく生で直接飲むことはできないとされています)。
しかし人間に無害な水道水でも海水魚や水槽内の生物にとっては害を与える水となります。
水道水に含まれている程度の塩素量は 、人間のような大きな生物にとっては影響ありませんが 水槽内の小さな生物にとっては影響が出てしまいます。
そのため熱帯魚飼育でも海水魚飼育でも中和剤を使って塩素を別の物質に変化させて塩素の害を除いています。
ただし塩素は分解しやすいものなので蛇口から外に出された水道水は自然と塩素がなくなっていきます。
バケツに入れた水は日向に1日放置しておけば塩素が含まれていない水になりますし、エアレーションしたりかき回していればしばらくするうちに塩素は飛んでしまいます。
近年は塩素にかわり安定性の高いクロラミンが使われることが多くなり塩素臭のしない水道水が増えてきています。
クロラミンは塩素と違いなかなか揮発していかないのでクロラミンが使われている水道の場合は必ず中和剤を使う必要があります。
ハイポは水槽に入れる水に2〜3粒入れて溶かして使います。
液体のほうが水には溶けやすいため、最近はハイポを水で溶かしていくらかの添加剤を加えたコントラコロラインのような液体タイプが数多く販売されています。
海水の素(人工海水)によっては、日本の水道水用に海水の素の中にハイポが含まれているものがあります。このような海水の素の場合は中和剤を使う必要はありません。また
浄水器を通した水を使って海水を作っている場合も浄水器によって塩素は除かれているのでハイポのような薬品を使う必要はありません。
→ RO浄水器

3. 比重計
天然海水を毎日使い続けていく場合以外は比重計が必需品になります。 海水魚は海の比重1.023に適応している生物で湖や川などの淡水では生きていくことはできません。 そのため水替えの時は比重計を使って海水の比重以下(水槽飼育では1.020くらいが適正です)にすることが必要になります。 水槽に入れた海水は時間が経つと水分だけが蒸発して比重は時間の経過とともに高くなっていきます。 海水魚は比重の高い海水の中では健康的に過ごすことはできません。すなわち病気にかかりやすくなります。 そのため日常のメンテナンスとして比重が高くなってしまったときに淡水で薄めて1.023以下を保っていく作業が必要になります。 適正な比重になっているか確かめるため比重計が必要となります。 比重計(ポインタ式)は海水をすくって針の示す位置で比重を計るものです。 比重計はあまり正確なものではなくメーカーや個々の製品によって多少の誤差があります。 おまけに使っていくうち塩分がこびりついたりして狂っていき1年程度で大きな誤差になってしまうものがほとんどです。比重計には このほかに水に浮かして沈み具合で適正比重かどうかを知るボーメ計というものもあります。 比重を正確に計りたいときは比重計やボーメ計ではなく塩分濃度計を使って測定します。


4. 水槽
水槽内の水は海水魚の排泄物や餌の食べ残し生物の死骸などでどんどん汚れていきます。 発生したばかりの汚れは水槽内の水で薄められるので直ぐに海水魚が病気になっていくということはありません。 大きな水槽ほどたくさん薄まることができるので悪化スビードはゆっくりとなります。 従って海水魚をたくさん飼いたいときや大きな海水魚を飼いたいときは水槽が大きいほど飼育しやすくなります。また、海水は淡水より汚れやすい性質があることや淡水魚より海水魚のほうが汚れに弱い生き物であることにより(おまけに海水魚のほうが10倍汚れの強い糞をします)海水魚飼育では小さな水槽は不向となります。 水槽の大きさは最低でも60p以上にするのが良いと思います。 水槽の形は丸でも三角でも何でも良いのですが使いやすい長方形の容器が規格水槽として売られています。 横幅を基準にして45p水槽、60p水槽、75p水槽、90p水槽、120p水槽、150p水槽、180p水槽などと呼ばれています。 規格水槽は量産できるためオーダー水槽と比べて安く売られていて、特に45p水槽、60p水槽などは飼育器具とセットにして特別安価な値段で売られています。 水槽は長く使っていくと接合部から水漏れしだすものがあるので接合部がしっかりしたものを選ぶことが必要ですし地震や衝撃に対して耐えられる厚さのものを選んでおいたほうが安心です。 ガラス製60p水槽では8o厚以上であれば安心です。 アクリル水槽では5o厚のものは水を入れた時中央部分が内圧のため膨らんでしまいます。 膨らんだからといって割れてしまうことはありませんがこれが気になる人はそれより板厚のあるものを選ぶ必要があります。

淡水にすむ熱帯魚などなら小さなインテリア水槽でも充分飼育できますが水の汚れに弱い海水魚はなかなかうまく飼育できません。
とはいえ飼育に手間はかかってもおしゃれな水槽で飼育したいという人もいますしうまく飼育できている人もたくさんいます。
飼育魚をカクレクマノミ2匹だけにして毎日水替えをしていくというのなら小さなインテリア水槽で飼育できますが手間がかかり気も使います。
大雑把に言って初心者は60p水槽以上でないとうまく飼育できないと言えます。
上級者になればこれより小さな水槽でも飼育していけます。
海水魚は水質悪化に対して弱い生物なので濾過能力の高い水槽の方がうまく飼育していけます。
一番濾過能力の高い濾過方式はオーバーフロー濾過になりますので海水魚飼育をするにはオーバーフロー水槽を使うのが一番適しています。

水槽の材質はガラス水槽が普通ですが重い割れに弱いという欠点があります。
それに対し比較的軽く衝撃に強く断熱効果があり透明度も高いアクリル水槽を使っている人も多くいます。
日本各地にある今大人気の水族館の大きな水槽は全てアクリルで作られています。
ただ、アクリル水槽はガラス水槽に比べて傷がつきやすいという弱点がありコケ掃除などは丁寧に行わないと簡単にキズがついてしまいます。
一旦キズがついてしまうとキズの中にコケや汚れが入っていきとても落としにくく汚くなってしまいます。
アクリル水槽は2種類のものがあって、価格は安いけど傷がつきやすく強度の劣る押し出し板という種類と、価格は高いけど透明度が高く強度に優れヒビが入りにくいキャスト板というものがあります。
ホームセンターで売っているアクリル板は押し出し板で、接合は接着剤ですることができます。
そのため加工組み立てが簡単にでき自作でオーバーフロー水槽を作るときは押し出し板で作ることになります。
一方キャスト板の接合は接合面にアクリルモノマーを流し込む重合接合という方法で行い接合するための設備を必要とするのでDIYではできません。
販売されているアクリル水槽は価格の安いものは押し出し板で作られていて板厚が薄く水を入れると中央部が内圧で少し膨らみます。
この水槽をしばらく使っていくと細かいヒビ模様が入ってきますがヒビが入ったからといって割れることはありません。
キャスト板のアクリル水槽は板厚の厚いものが多く、きれいな仕上がりに作られていて値段が高く綺麗なまま長持ちします。
- さくらペット
カンテツ
エーキューデザイン
ウェイブクリエーションヤマダ などに注文することができます。
水槽は台に乗せて眺めることが普通なので水槽台も必要となるでしょう。 水槽の重量は60p水槽でも60〜70kgぐらい、90p水槽になると200kgくらいにもなりとても重いものです。 水槽台はDIYで自作することが比較的簡単なので自分で作っている人が多いものです。 ホームセンターなどで材料をカットしてもらうと簡単に作れるのですが強度に注意する必要があります。 水槽台の代わりに棚や出窓、玄関の下駄箱などに載せることが考えられますがそれらは水槽のような重いものを載せることを前提に作られていません。 水槽を載せると重さで下がってしまい下駄箱などは戸が開かなくなってしまうことがあります。

5. 温度計
水槽内の水温が海水魚の飼育に適した25℃程度に保たれているかどうかを知るために必要です。
海水魚の多くはこの温度より高くなったり低くなったりすると体調を崩してしまいます。
1日の水温が上下せず安定していることも大切です。
海水魚はもともとすんでいた海域の水温に適応していてその温度から外れてしまうと病気になっていきます。
川や湖に生息している淡水魚は比較的温度変化に耐えられます。
一方、水温が安定している海で生活している海水魚は温度変化に弱い体になっています。
通常飼われている海水魚は南洋の海で生活しているものなので約25℃が適温となっています。
日本近海の海水魚を自分で捕まえて飼育している人や北の海に生息している海水魚を飼育している人の場合はこれより低い水温が適温となります。
温度計(水温計)は棒状のガラス製のものが昔から使われてきていますが現在では温度が分かりやすいデジタル式のものが使いやすいでしょう。
海水魚は1日の最高温度と最低温度の差が大きいと免疫力が下がって病気になってしまいます。
温度差は少なければ少ないほどよいのですが夏場など昼の温度と夜中の温度が大きく違ってしまうことがよくあります。
温度差が原因で病気になることはよくありますが
海水魚を病気にさせないため一日中温度計を眺めているわけにはいかないので最高温度と最低温度を調べられるデジタルタイプのものを選ぶのがよいでしょう。
温度差が大きいと分かったときには何らかの対策が必要となります。

6. ヒーター
水槽の大きさ | 適したヒーター |
---|---|
30cm水槽 | 50W程度 |
45p水槽 | 100W程度 |
60cm水槽 | 150W程度 |
90cm水槽 | 200W〜300W程度 |
水槽の大きさに対して能力の低いヒーターを選んでしまうと、水温をなかなか適正温度まで上げられず1日中ヒーターが働いている状態になります。 この間電気は使いっぱなしになり電気代がかかってしまいます。 適したものだとすぐ適正温度まで水温が上がりサーモスタットが働いてくれるのでヒーターが止まった状態になります。左表の基準は部屋の暖房が効いているところに水槽が置かれている場合なので そうでないところではワンランク上にした方が良いでしょう。 以前はヒーターは消耗品と言われ1年で新しいものに交換していたり、ヒーターが故障した時のことを考えて一つが壊れてももう一つが働いてくれると考えて2本必要だとも言われていたものです。 でも現在のタイプはそのようなことはなくあまり故障することはありません。 そのほかエコのことを考えるとヒーターが必要な季節は水槽の上にフタをしたり周りを断熱材で囲うのが効果的といえます。


7. クーラー
生物細胞の働きは温度が高くなるほど活発になり温度が低くなるほど鈍くなる性質があります。
そのため海水魚は水温が低くなると動きが鈍くなり健康に過ごしていくことはできません。
逆に水温が高くなると動きが速くなって元気に泳ぎ回るのですが限界を超えると病気になり死んでしまいます。
多くの海水魚が30℃くらいが生きていける限界近くになります。
サンゴなどはこの温度でも生きていけず28.5℃くらいが限界です。
そのため日本の多くの地方でクーラーなしで夏場を越すことが難しいのです。
水槽はエアコンが一日中効いている部屋に設置するのが理想ですがそうでない場合はできるだけ長い時間エアコンが動いている部屋に置くのが良いと思います。
海水魚飼育では多くの場合夏場のクーラーは必需品となります。
クーラーを使わないで夏を過ごすには照明を水槽から離して発生する熱を除いたり、水温を上げる原因となる水中ポンプなどを使わないようにしたり、水槽のふたを外したり工夫をします。
こうすることである程度しのぐことはできます。
でも海水魚は高水温になると体力の弱った状態になり病気にかかりやすくなっています。
それなのに水中の病原菌などは活動が活発になるので海水魚は免疫力の下がった状態で病原菌類と戦っていくことになります。
そのため少しの水質悪化でも簡単に病気になってしまいます。
クーラー無しの夏場は管理が大変になります。
クーラーの選択はメーカーの示す適正水槽より1ランク上のものを選んだほうが失敗がないものです。
クーラーの種類は価格が安く音の静かなペルチェ式と通常のチラー式がありますがペルチェ式は小型水槽向けのものです。
60p水槽用として選んでしまうと本体を買うときは安く買えたけどクーラーが働きっぱなしで電気代がかかるという結果になります。その上なかなか冷えないということもあるのでよく考えて選びましょう。
冷却ファン
高額なクーラーには手が出ないという人に水温を2〜4度下げることができる冷却ファン(クールファン)という選択があります。 水槽が置かれている部屋のエアコンが割と長い時間動いているようなときは冷却ファンで夏場を過ごせることもあります。 冷却ファンの台数を増やして効果を上げることも出来ますが、冷却ファンを使用するときは水の蒸発による比重上昇に注意を払う必要が出てきます。


8. 濾過器(濾過フィルター)
各社からいろいろな濾過フィルターが売り出されています。
小さな水槽向きのもの、普通程度の水槽向けのもの、大きな水槽で使えるものなどがあります。
水槽の大きさ、飼育生物の種類、飼育生物の大きさ、数などに見合ったものを選択することが大切です。
海水魚飼育は淡水魚飼育を長年続けてきたベテランが自信もって始めたとしてもほとんどが次々と死なせています。
その原因の一つが濾過能力の違いについての理解不足です。
海水魚も熱帯魚と同じように育てられるだろうと誤解していることです。
現在いる淡水魚も海水魚も何万年もの間で棲む環境に適合し続けてこれたものだけです。
淡水に住む魚は川が増水したり干上がったりした時にも生き延びられたものだけです。
水が少なく日照りで高水温になった時でも死ななかったものです。
飼育用としてショップで売られている熱帯魚は熱帯魚業者の水槽で生まれ育てられたものがほとんどです。
そのため我々の狭い水槽内でもあまり苦も無く生存していける体になっています。
それに対し海水魚は1年中ほとんど変化ない広い海で同じ環境のまま過ごしてきたものだけです。
海の表面は雨風嵐雷雪で変化しても陸上の川や湖が雨不足で干上がっても海中はほとんど変化がありません。
また自然の中でしか生きられない海水魚と熱帯魚業者の水槽で生まれた熱帯魚とでは狭い水槽で生き続けられる能力に差があります。
このことはちょっとした水質の変化が生じたとき耐えられるか耐えられないかの違いになります。
ろ過器というものは淡水魚を飼育するための器具として開発販売されてきました。
そのためろ過器の能力は淡水魚をどのくらい飼育できるかを示したものになっています。
そのろ過器を海水魚用に使う場合は水質変化に対する耐性の違いからワンランク上のものが必要となります。
もし淡水魚飼育のベテランが今までと同じ基準でろ過器を選択すれば確実に濾過不足となります。
海水魚飼育ではベテランでも初めて魚飼育をする人と同じように1から勉強し直さないといつまでたっても海水魚を死なせ続ける結果となってしまいます。
濾過フィルターは濾過するやり方によって数種類のタイプに分かれます。
メンテナンスが簡単なものとそうでないもの能力の高いものとそうでないものなどあります。
海水魚飼育ではメーカーが推奨している能力のワンランクか2ランク上のろ過フィルターを選ばなくてはならないことを念頭に違い別にろ過フィルターを見ていくと次のようになります。
1.投げ込みフィルター(水中フィルター)
小型水槽向けのフィルターで手軽さを売りにしているタイプなので能力的にはあまり高くありません。
大きな水槽には適しません。また水槽の中で露骨にフィルターが目立ってしまうので見栄え的にあまりよくありません。
金魚鉢で金魚を飼うときには適当かもしれませんが水質の変化に弱い海水魚向きとはいえません。
物理濾過を目的としたフィルターで水質悪化に強い魚(金魚など)向けと言えます。
そのため海水水槽でこのフィルターが使われることはほとんどありません。
このタイプのフィルターでスポンジをかぶせたタイプがあります。
このタイプは小さな生物(魚の稚魚や小エビなど)を飼育するときフィルターの中に吸い込まれてしまうのを避けるために用意されているものです。
目の細かいスポンジを使い吸込み力も弱くしています。
そのためブリーディング時によく使われます。

2.外掛けフィルター(ワンタッチフィルター)
価格が比較的安くメンテナンスも簡単で手軽さが売りのフィルターです。 このフィルターは水槽からはみ出る形に設置するのであまり大きくすることができず小型水槽向けがほとんどです。 海外のアクアリウムではよく使われていますが日本では上部フィルターが普通に使われているのでそれほど使われていません。 海水魚飼育のフィルターは淡水魚飼育のワンランク上を使う必要がありますがこのタイプは規格の種類があまりなくマリンアクアリウムのろ過器としてはあまり使われていません。 でもこのフィルターを補助フィルターと考えて底面フィルターと接続したり別のフィルターと併用して長期飼育に成功している人などはいます。

3.底面式フィルター
価格が安く昔からよく使われているフィルターですがメンテナンス性が悪くマリンアクアリウムで使われることはほとんどありません。 このフィルターのメンテナンスはフィルターを底砂から掘り出さなくてはなりません。 飼育を続けていくと底砂の中に時間の経過とともに病原菌や悪影響を与える物質が沈殿して溜まっていきます。 メンテナンス時はこれらを水中にばらまくことになってしまいます。 フィルターのメンテナンスを行ったら海水魚が次々病気になったということはよく起こります。 金魚飼育や淡水熱帯魚飼育と違い水の汚れに非常に弱いマリンアクアリウムには不向きなフィルターです。 ただし、ろ過能力は他のフィルターと比べてとても高いので別のろ過器と組み合わせて使い、別のフィルターのメンテナンスをこまめにし底面濾過フィルターのメンテナンスは数年に一度にしてうまくいっている人もいます。


4.上部フィルター
価格は普通程度でメンテナンス性が良いため昔から熱帯魚飼育で広く使われてきています。
アクアリウムの初心者用に水槽、蛍光灯照明(現在はLED照明になっています)とセットにして非常に安く売られているので多くのアクアリストが使っています。
このフィルターは水槽の上面半分近くをふさいでしまいますが蛍光灯照明とセットにするときれいに収まるので人気があります。
ただ海水魚水槽のフィルターとしては少し濾過能力が不足します。
容量を大きくしたり特殊な構造に改良したものがマリンアクアリウム用として売られていますのでこれを使用している人もいます。
そのほか別のタイプのフィルターと併用したり底面フィルターと接続して能力を高めた使い方をしてうまく飼育できている人もいます。
5.外部フィルター
濾過器を水槽から離して目立たない場所に設置することができるフィルターでパワーフィルターとか密閉式フィルターとも呼ばれています。作動音はほかのフィルターと比べて静かです。
メンテナンスを行うとき水槽内に全く手を触れずにすることができ海水魚飼育でもよく使われています。
濾材をデフォルトのものと変えて自由に組み合わせることができるのでより濾過能力を高める工夫もできます。
さらにサブフィルターを連結させて濾過能力を高めることも可能です。
ですがマリンアクアリウムではほかのフィルターより空気の取り入れが少ないため海水魚の飼育数が多い時には酸素量不足になることがあります。
シャワーパイプの出水角度調整が必要になりますし場合によってはディフューザーを使って空気取り入れ対策をしなくてはならないかも知れません。
これにより塩ダレや水はね音の問題が出ることもあります。
海水魚飼育で外部ろ過フィルターを使うときは2ランク上の能力のものを使うか複数台使うか別のフィルターと併用して運転していくかになります。

6.オーバーフローフィルター
濾過能力が一番優れているフィルター方式で海水魚飼育に最も適しています。
このフィルターは水槽の底に穴をあける必要があります。
そのためほかのフィルター方式から切り替えるときはそれまでの水槽をそのまま使うことはできません。
新たに専用のメイン水槽とサンプが必要となってしまいます。
価格が一番高いフィルター方式ですが濾過能力は一番高いので海水魚飼育には最も適したものになります。
多くのベテランがレベルが上がってより高級な海水魚、より飼育の難しい海水魚へと進んでいくうち必ずこの方式にしていきます。
出来れば最初からこのフィルターを選ぶのがベストです。
この方式は追加設備として紫外線殺菌灯、プロテインスキマー、カルクワッサーなどいろいろ増えていったとしても、それらは目に触れないサンプ内に設置することができます。
そのためメイン水槽は余計なものがないスッキリしたものにできます。
メンテナンスはメイン水槽に手を触れずサンプ内だけでできるので、メンテナンス時に出来上がった水景を崩してしまうということがないメリットがあります。
サンプは決まったものでなければいけないというわけではなく濾過能力を高めたければ大きなものにすることができます。
ドライろ過槽、ウェットろ過槽を併用したりいろいろな濾材で試行錯誤してみたりすることができます。
プロテインスキマーを設置することによりさらなる濾過能力アップが計れます。


9. 照明器具

アクアリウムで使われる照明器具は蛍光灯照明、メタルハライド照明、LED照明になります。 照明の主目的は水槽内をきれいに見せるためですが水槽内の生物に昼夜の生活リズムを与えることも重要な役割になります。 窓際に水槽を置いている場合は、自然と朝明るくなって夕方暗くなりますがコケの発生を防ぐ目的で水槽は太陽光の当たらない場所へ置くのが普通です。 外からの光があまり入らない水槽では照明で昼夜を作ってあげます。 毎日昼間の時間を7〜10時間程度のサイクルでスイッチON/OFFしていきます。毎日のこの作業を継続させるのは大変なのでプログラムタイマーに設定しておくのが良いでしょう。 光を浴びて生活している生物は昼と夜のサイクルがないとストレスで体調が狂い病気になっていきます。 水槽内の生物に昼夜のリズムを与える目的なので昼間消灯して帰宅後水槽を見ている時間に点灯させるような昼夜逆のサイクルにしている人もいます。
蛍光灯照明
昔から60p水槽で上部フィルターと対で使われてきた照明です。 蛍光灯照明はこのタイプ以外に 小さなフレームレス水槽に良く似合うおしゃれなスポット式蛍光灯もありました。 海外から輸入された蛍光灯照明器具にはT5という規格の蛍光灯が使われていることがありますが、この規格の蛍光灯は従来の蛍光灯より性能的に優れています。 ただ、最近はLED照明の性能が上がり蛍光灯照明の出番は少なくなってきていて蛍光灯照明は次々と生産終了になっています。
メタルハライド照明
サンゴなどを飼育している水槽ではサンゴの成長に強い光を必要とします。
蛍光灯で強い光を求めようとすると蛍光灯4本以上が必要でそれでもまだ光不足気味な状態でした。
そのため海水魚飼育(特にサンゴ飼育)では蛍光灯でなくメタルハライドライト(メタハラ)が多く使われてきました。
メタハラは価格が高く電気使用量も多く交換球も高いものです。
発熱量も多く水温をかなり上げるので高額なクーラーの設置が必須になります。
メタハラは一点集中的に光を放つ集光型と蛍光灯のように広い範囲を照らす散光型があります。
メイン照明としては散光型を使いあるサンゴにスポットを当てたいというような場合に集光型を使います。
メタハラランプには明るさの強さを表す150W、250WなどのW数とは別に色味の違いを数値で表した色温度があります。
10000K、20000Kなどで区別されていますが色温度は昼間の太陽光で見る色が5500Kくらいです。
同じものを見たとき昼間の太陽光で見たときの色と曇りの日に見た色では違った色に見えます。
曇りの日には少し青っぽい色に見えます。
曇りの見え具合は6000Kくらいでしょう。
数字が高くなるほど青っぽい色になり数字が低くなるほど赤っぽい色に見えます。
夕焼け時の光で見る色は2000Kくらいになります。
海水魚飼育には青っぽい水の色が適しているため10000Kなどのメタハラが使われています。サンゴ飼育では長い間メタハラ照明が主流でしたが現在はLED照明の能力が上がってきたためメタハラ照明は過去のものとなりつつあります。
LED照明
日本政府の省エネ政策によってLED照明が奨励されているためアクアリウムの世界でもLED照明が主流となってきていて蛍光灯照明、メタハラ照明は過去のものとなりつつあります。LEDは電気使用量が少なく長寿命、低発熱性など長所が多くまさにアクアリウム向けの照明です。
LEDの光は直進性が強いため広範囲を照らすメイン照明に向いていなかったため長い間主としてスポット照明として使われてきました。
でも現在では技術の進歩によりLEDでも広角の光を出せるようになってきた上性能的にもメタハラを凌ぐ製品が各メーカーから次々発売されています。今後はアクアリウム照明といえばLEDとなるでしょう。

プログラムタイマー
水槽内を綺麗に見せるため照明をつけますが毎朝点灯して夕方消灯するのを忘れずに行っていくのはしんどいものがあります。
残業や出張でできないことも発生します。
プログラムタイマーをつけておけば確実に点灯消灯を繰り返してくれるので多くの人が利用しています。
照明を数個つけてプログラムタイマーの設定を数分づつずらし順に点灯消灯をしているベテランもいます。
だんだん明るくしていって海水魚にショックを与えないよう工夫しているそうです。
海水魚はショックを受けると免疫力が低下し病気にかかりやすくなるので良いことでしょう。
プログラムタイマーに限りませんがアクアリウム用として販売されているものの中には一般的なものをアクアリウム用として高く売っているものがあります。
プログラムタイマーも一般的なものを探すと安く手に入れられることがあるので探してみるのもお勧めです。


10. その他
海水魚飼育では以上の必需品の他に日常のメンテナンスのためコケ掃除用具や毒抜き用具のプロホースなども必要になるものです。
水替えのときはなるべく砂の奥に沈殿している汚れを排水と一緒に取り出すようプロホースなどで吸引して行うのが良いです。
決して砂をほじくって中の病原菌類を水中にばらまくことのないよう排水する必要があります。
バックシートを貼ったり飾り岩やミニチュア蛸壺などを入れたりして鑑賞性を高めることも良いです。
飾り岩などは海水魚の隠れ家になるので人が近寄ってきて驚いたり大きな海水魚に脅されたりしたときの避難場所となり必要です。
海水魚は驚くとストレスで免疫力が下がり病気になってしまいます。
底砂を入れることも必要かもしれません。
海水魚飼育の底砂は海水の酸性化を遅らせる働きを持つサンゴ砂を使いますが、底砂は必ず入れなくてはならないというものではありません。
底砂は各種有益バクテリアやベントスなどの棲みかとなりますが病原菌や害になる物質が溜まっていく場所にもなっていきます。
水質良化にも働きますし水質悪化にも働くところです。
ここを良い状態に維持しておくと水質悪化の原因が発生したとしても緩衝作用が働き水質の急変を防ぐことができます。
底砂がない場合は発生した悪化原因がストレートに水質変化に反映してしまいます。
その他に必要とするものは海水魚をすくったりゴミをすくったりするときのネットがあります。
大きな海水魚用と小さな海水魚用など何種類かのネットを用意するとよいと思います。
ただし海水魚をネットで直接すくうと海水魚が暴れて網目で鱗などを傷つけることがあります。
傷がつくとその部分に細菌が繁殖して病気が発生します。
繁殖した細菌は他の魚にも影響を及ぼしてしまいます。海水魚はネットで追って手ですくったりプラケースなどに追い込むのが良い方法です。
この他場合によっては塩分濃度、アンモニア濃度、亜硝酸塩濃度、硝酸塩濃度、
リン酸塩濃度、ヨウ素濃度、pH、ORP、TDS、
総硬度、炭酸塩硬度、カルシウム濃度、溶存酸素量、鉄濃度、
銅濃度、二酸化炭素濃度、アルカリ度
などを調べるためのテスターや水質測定試薬が必要となることもあります。
環境の変化に弱い生物や飼育するのが難しい生物を飼うときにはこれらの必要性は高まります。
上級者になるためにはこれらを駆使する能力を備えなくてはなりません。
うまく水質を安定させられなくてどうしても病気が発生してしまうことがあるかもしれません。
そのときは海水魚の病気を治す薬浴剤や紫外線殺菌灯、殺菌筒、オゾナイザーなどを使うことになります。
海水魚は水質が悪化したり他の海水魚に追い掛け回されたりしてストレスを感じると病気になります。
病気になってしまった魚は放っておくと他の魚達に攻撃されて病気の進行が進んでしまいます。
できれば別の容器に移して隔離し薬浴するか淡水浴するかして治していきます。
隔離するだけで周りの魚に攻撃されないため回復してくれるケースも多いものです。
紫外線殺菌灯、殺菌筒、オゾナイザーなどは常時水中にいる病原菌の数を少なくする働きがあります。
病気の原因材料を減らす効果があるのでどれかを設置しておけば病気の発生を少なくすることができます。
水槽の水は時間と共に悪化していきます。水質を安定させるためのコンディショナー、添加剤などを使う必要がでることもあります。
特に水質変化に弱い生物ほど必要性は高まり重要なファクターとなります。
また、飼育を続けていく上でコケの除去は避けて通れない問題です。
コケの発生を抑えるには濾過の能力が大きく関わっているので濾過能力を高める努力をします。
それに加えて発生を抑えるために使えるものとしてコケ除去剤、紫外線殺菌灯、殺菌筒、オゾナイザー、リン酸塩除去剤、ケイ酸塩除去剤やアルジーイーターと呼ばれる藻食生物などがあります。
海水魚を飼育するには以上のものを揃えれば飼育していけますが物を揃えただけではうまく飼育することはできません。
道具を揃えただけで手順を踏まずに海水魚を投入していき次々と死なせている人が多いものです。
かつての私もその内の一人です。海水魚の飼育には淡水魚の飼育以上に水づくりが大切な問題です。
是非時間をかけて水を作ってから飼育を楽しむようにしてください。
次に以上の物がそろったところでどうやって飼育していくのかを説明していきます。
